加藤勝信厚生労働大臣宛ての要望書を提出(議員連盟)

-全国アンケートの結果を国政へ-

 令和2年6月17日、知的障がい者の明日を考える議員連盟は、新型コロナウイルス感染症による福祉現場への影響に関する要望書(加藤勝信厚労大臣宛て)を、厚生労働省に提出した。

 本要望書は、全国アンケートの回答内容に基づいて勉強会が作成した要望事項(第1次)をもとに、議員連盟の野田聖子会長が主体となって作成されたものである。

 本要望書の提出により、全国の福祉現場が新型コロナウイルス感染症により重大な影響を受けている状況が直接厚生労働省へ伝えられることとなった。


トピックス


勉強会からの第1次要望書を議員連盟の野田聖子会長に提出(6月5日付)

 知的障がい者の抱える諸問題と明日へ繋がる政策を考える会(勉強会)は、6月5日付で全国アンケートの結果に基づいた要望書(第1次)を、議員連盟会長の野田聖子先生、事務局長の三原じゅん子先生に提出しました。

野田聖子事務所にて勉強会からの要望書を受け取る
野田聖子会長(中央右)と三原じゅん子事務局長(中央左)

 勉強会が提出した第1次要望書は、要望項目が多い内容でしたが、野田聖子会長は「アンケートにも沢山の記載があって、実際に現場の皆さんが困っている内容ばかり。知的障がい児・者の目線が抜け落ちている今の厚労省の施策では、現場からの要望項目が増えるのは当然なので、全部(厚労省に)要望しましょう!」と述べ、積極的にご賛同していただきました。

 その後、勉強会からの第1次要望書をもとに、野田聖子会長をはじめ議員連盟所属議員の先生方等が内容を検討し、加藤勝信厚生労働大臣宛の「議員連盟としての要望書」をご作成いただいております。

 要望事項の記載順序や文言の軽微な修正は行っておりますが、野田聖子会長からの「勉強会から提出した要望事項は全て重要である」との後押しもあり、要望事項の削除等はなされておりません。

勉強会からの要望事項の説明を受ける野田聖子会長
中央・野田聖子会長、中央左・三原じゅん子事務局長、左端・大川豊総裁

議員連盟から加藤勝信厚生労働大臣宛ての要望書を厚労省へ提出(6月17日付)

 知的障がい者の明日を考える議員連盟は、加藤勝信厚生労働大臣宛ての「要望書(新型コロナウイルス感染症を原因とする福祉現場への影響に関するアンケート結果に基づく要望事項)」を、令和2年6月17日付で厚生労働大臣政務官の自見はなこ先生に提出しました

 本来であれば、会長の野田聖子先生をはじめとする議員連盟所属議員の先生方と共に提出を行いたいところでしたが、新型コロナウイルスの感染防止のため、事務局長の三原じゅん子先生が代表してご提出を行っております。

※提出した要望書に関しましては、本記事の下部に全文を掲載しております。

厚生労働省・大臣政務官室にて加藤勝信大臣宛ての要望書を提出
左・自見はなこ大臣政務官、右・三原じゅん子事務局長

厚生労働省・大臣政務官室にて

 三原じゅん子事務局長と自見はなこ政務官の面談は、厚生労働省内の大臣政務官室にて実施されました。

 要望書の提出にあたっては、冒頭に自見はなこ政務官より「親亡き後の終の棲家の確保」を最終目的として活動する議員連盟・勉強会に敬意を表していただいた後、三原じゅん子事務局長が説明される各要望事項について、自見はなこ政務官が全国アンケートの結果を逐次確認しながら進められました。

全国アンケートの内容を確認されながら要望事項の説明を受ける
左・自見はなこ大臣政務官、右・三原じゅん子事務局長

この中で、三原じゅん子事務局長から自見はなこ政務官に対しては、

① 現状の厚労省の新型コロナウイルス対策施策では知的障がい児・者のことが抜け落ちていること、

② 知的障がい児・者が新型コロナウイルスに感染した場合には、受入れ可能な病院が極めて限られており、現実的には緊急搬送等が不可能であること、

③ 知的障がい児・者の支援にあたる方々も、医療従事者の方々と同様に常に感染の危険にさらされており、PCR検査や抗体検査等のバックアップ体制が必要であること、

④ 厚生労働省が「サービス継続支援事業」といった事業継続のための制度を打ち出しているのに、事業者や利用者側に十分な周知がなされていないこと、

⑤ 過去の議連で問題になったのと同様に、新型コロナウイルス対策のために厚労省が出した事務連絡・通知に関して、各市町村で解釈が異なり事業者・利用者等に混乱が生じていることなど、

全国アンケートの内容を踏まえて福祉現場の厳しい状況を詳細にご説明いただいております。

新型コロナウイルス感染症に関する全国アンケートの結果
(同じ資料を自見はなこ大臣政務官にはご提出しております。)

新型コロナウイルス感染症対策に関する勉強会の今後の対応について

 勉強会としては、皆様からお送りいただいたアンケートの集計終了後、第2次要望事項の検討を進め、最終的に再度議員連盟の先生方へのご提出を行いたいと考えております。

 また同時に、この度の要望事項に関しても、野田聖子会長をはじめとする議員連盟の先生方と協力のうえで厚労省等へ継続的な問合せを行い、進捗状況の確認等を実施してまいります。

 今後とも皆様のご支援、ご協力を何卒宜しくお願い申し上げます。


資料

要望書(全文)

令和2年6月17日

厚生労働大臣

 加藤 勝信先生

知的障がい者の明日を考える議員連盟

会長 野田 聖子

新型コロナウイルス感染症を原因とする福祉現場への
影響に関するアンケート結果に基づく要望事項

1.感染症対策に伴う危険手当制度および運営経費等への助成制度の構築

(1)危険手当制度の構築【厚労省】

 事業所内における新型コロナウイルス感染症拡大の第二波の可能性を見据え、感染者へ手厚い支援を実施するためにも、継続性のある危険手当等の制度構築が必要である。

 新型コロナウイルス感染症が事業所を利用する障がい児・者に生じた場合に備え、継続性のある危険手当等の支給制度または助成制度を構築していただきたい

(2)新型コロナウイルス感染症対策等に伴い生じた残業代への助成措置【厚労省】

 各事業所では、職員またはその家族に発熱者が発生した場合、安全が確認されるまで該当職員の出勤停止等の措置を講じており、結果として出勤停止の職員の欠員補充のため、他職員による多大な残業時間が生じている。

 また、障がい児入所施設においては、新型コロナウイルス感染症予防のための全国学校一斉休校が原因で、入所施設内での日中支援が増加した結果、施設職員の残業が常態化しているケースも生じている。

 感染症拡大予防措置のために生じた事業所職員の残業代に関して、全額助成を行う事業を実施していただきたい

(3)新型コロナウイルス感染症対策により生じた運営経費への助成措置【厚労省】

 多くの事業所は感染症拡大防止のために、マスクや消毒液等の衛生用品を、最も価格が高騰した3月4月に購入しており、備品購入費が事業所の運営を圧迫している。

 また、障がい児入所施設においては、全国学校一斉休校が原因で朝食・夕食に加えて「昼食」も施設内で提供する状況となっている。昼食費用の事業所負担および食数増加に伴う給食業者への委託費用の増額が生じ、施設運営を圧迫する状況が続いている。

 上記の現状を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策が原因で、事業所に新たに生じた運営経費に対する助成事業を実施していただきたい

(4)サービス継続支援事業の対象拡大の検討【厚労省】

 現在整備が進められているサービス継続支援事業の実施により、利用者の居宅等においてできる限りのサービスを提供した事業所等に関しては、事業所が支出した危険手当や備品購入費等への一定の助成が見込まれるところである。

 他方、重度知的障がい者等が利用する入所施設等においては、利用者の家族が自宅で対応することが困難であるため、事業所側が職員への危険手当の支給や衛生用品の大量購入を行いつつ通常通りの運営を行っていた場合も生じている。当該場合においては「利用者の居宅等においてできる限りのサービスを提供した事業所」等には該当せず、サービス継続支援事業の対象とはならない。

 利用者が重度知的障がい者であり家族による自宅での受け入れが困難であったなど、やむを得ずに通常通りの運営を継続していた入所施設等の事業所に関しても、今後、サービス継続支援事業の対象としていただくよう検討していただきたい

2.新型コロナウイルス感染症対策により生じた事業所の収入減への対策

(1)事務連絡中の「できる限りの支援をした」との解釈の統一化【厚労省】

 厚生労働省の令和2年5月27日付事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス等事業所の人員基準等 の臨時的な取扱いについて(第7報)」(以下「事務連絡」という。)に基づき、事業所は休業時等であっても、市町村が「できる限りの支援をした」と認める場合には、報酬の算定が可能とされている。

 当該事務連絡の解釈に関しては、各市町村によって大幅な差異が生じており、①各家庭への家庭訪問が要求される場合、②利用者宅へ教材等を送付し、市町村へ教材の進捗状況の報告が要求される場合、③利用者宅への電話連絡の回数が1~3回と統一されていない場合等が生じており、市町村への確認事務の煩雑さや家庭訪問による感染拡大の懸念から、全国の事業所において報酬の算定を断念するケースも生じているところである。

 全国の事業所の混乱を防ぐためにも、事務連絡中の「できる限りの支援をした」の解釈に関し、「事業所から利用者に対する1回以上の電話連絡」といった明確な記載に統一していただきたい

 また、事業所職員が在宅の利用者に対して1回以上の電話連絡を行いつつも、各市町村の判断により「できる限りの支援をした」と認められなかったケースにおいても、遡及的に報酬の算定を可能としていただきたい

(2)事業所間における報酬按分措置の撤廃【厚労省】

 グループホームで生活する利用者に対し、事務連絡に基づき通所型事業所(生活介護、就労継続支援等)が在宅支援を実施した場合、通所型事業所が取得できる基本報酬とグループホームが取得できる日中支援加算を事業所間で按分することが求められている。

 しかし、事務連絡による対応は一時的なものであり、仮に基本報酬と加算の重複請求を認めたとしても国および自治体への大幅な負担にはならない。他方で、非常事態における現場において他法人との報酬按分は金銭トラブルの危険性が生じかねない。

 事務連絡に関し、通所型事業所の基本報酬とグループホームの日中支援加算について、重複請求を可能とする旨の記載に変更していただきたい

3.就労系事業所および利用者への支援策の実施

(1)緊急事態宣言の影響を踏まえた来年度以降の報酬基準の運用【厚労省】

 緊急事態宣言による経済活動の自粛により、就労移行のケースにおいては、勤務先でのリストラ等の危険性が生じている。

 就労移行実績の低下は、来年度の報酬(給付費)に重大な影響を与える内容である。

 就労系事業所の報酬算定に関しては、緊急事態宣言が原因で就労移行実績が下がった場合には該当期間を算定期間から除外するなど、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を考慮した内容にしていただきたい

(2)就労系事業所に対する持続化給付金制度の柔軟な適用【中企庁】

 就労系事業所においては、緊急事態宣言を受けて減少した利用者の工賃を補てんするため、やむを得ずに本来事業所が受領する給付費(報酬)の中から利用者に対して工賃相当額を支出しているケースが生じている。

 当該ケースにおいては、表向きは事業所の収入が大幅に減少しないため、持続化給付金制度の対象外となる。しかし、実態は事業所が収入の中から利用者に工賃相当額を支出するため、事業所の実質的な収益は大幅に減少している状況が生じている。

 就労系事業所に対する持続化給付金の適用にあたっては、事業所が利用者に対して工賃相当額を支出している場合には当該支出額を収入額から除外するなど、柔軟な対応を検討していただきたい

(3)就労系事業所の利用者に対する持続化給付金適用の緩和措置【中企庁】

 就労A型事業所利用者の多くは雇用契約による「給与所得者」扱いであり、就労B型事業所利用者の多くは請負契約であっても「確定申告を行えていない」ため、持続化給付金制度の対象者から外されている。

 就労系事業所を利用する障がい児・者の多くは、緊急事態宣言による経済活動の自粛により工賃額が減少していることから、自立支援の観点からも持続化給付金制度の対象とする必要がある。

 就労A型・B型事業所を利用する障がい児・者に関して、確定申告をしておらずとも持続化給付金制度の対象に含めるなど、実態に即した柔軟な運用、緩和措置を検討していただきたい

4.第二波を見据えた今後の新型コロナウイルス感染症対策

(1)「1プッシュ1アクション」の制度的導入と必要備品への補助制度【厚労省】

 障害・介護・医療の現場においては、新型コロナウイルス感染症対策として、「1つの行動につき1回消毒をする(1プッシュ1アクション)」ことの実践が進められている。「3密」を完全に避けることが不可能な支援現場において、最善の感染症対策は「消毒」であることから、厚生労働省に感染症対策として「1プッシュ1アクション」の指針を打ち出していただきたい

 同時に、当該指針の実施に必要となるアルコールや使い捨てペーパータオル等の衛生備品購入費の費用補助を検討していただきたい

(2)初期段階におけるPCR検査の導入【厚労省】

 知的障がい児・者の支援現場においては、障がい児・者本人が感染症の危険性や「3密」を避けることの必要性を十分に理解できず、体調不良時にも本人が直接口頭では身体状況を伝えられないなど、知的障がい児・者特有の問題が生じている。

 新型コロナウイルス感染の有無を早期に確定させ、保護者や事業所職員が主体となって自宅での隔離や施設内隔離措置を行うためにも、知的障がい児・者に対するPCR検査を初期症状の段階で実施できるようにしていただきたい

(3)事業所職員が抗体検査を実施した際の助成事業等の実施【厚労省】

 入所施設やグループホーム利用者に新型コロナウイルス感染者が生じた場合、受け入れ可能な病院が限られる現状では、事業所職員が感染した利用者への支援に従事せざるを得ない。

 職員間における感染拡大を防止するに当たって、可能な限り新型コロナウイルスについて、抗体の有無と再感染との関係や抗体の持続期間が明らかになれば、抗体検査を活用することで新型コロナウイルスへの事業所職員の感染リスクを低減できる可能性がある。


 新型コロナウイルスについて、抗体の有無と再感染との関係や抗体の持続期間を明らかにするとともに、抗体検査の有用性が明らかになった際には、事業所が職員に対して抗体検査を実施した場合における当該費用の助成事業の実施、または信頼できる「抗体検査キット」等を福祉事業所に対して優先的に配布していただきたい

(4)知的障がい児・者を受け入れ可能な病院の確保と公表【厚労省】

 強度行動障害者等をはじめとする重度知的障がい児・者は、精神科病院以外での受け入れは現実的に不可能であり、各事業者および保護者は新型コロナウイルス感染時の受け入れ先に強い不安を抱えている。

 また、感染拡大防止の観点から、入院時に事業所職員または保護者の付添いを行えないことが一層、入院先の確保を困難にしている。

 都道府県の各地域ごとに、新型コロナウイルスに感染した知的障がい児・者を、事業者や保護者の付添いなしで受入れが可能な病院および病床の確保を行い、ホームページ等により公表していただきたい

(5)感染者を受け入れた施設等への特別手当や応援金の支給制度の構築【厚労省】

 知的障がい児・者の感染者の受け入れ先が限られる現状において、新型コロナウイルスに感染した軽症者が発生した時に備えて既に施設内で隔離棟を設ける等している大規模事業所もある。

 医療分野においては、感染者を引き受けた病院に対して、自治体が主体となって手当支給や応援金の交付が実施され、感染時における積極的な病床の確保がなされているところである。

 障がい者福祉の分野においては、健常者に比べて感染時の受け入れ先が限定されることを踏まえ、軽症者の積極的な受け入れ先確保のためにも、国が主体となって施策等の方向性を定めて実施していただきたい

(6)障がい児・者の感染時における在宅での完全支援体制の構築【厚労省】

 知的障がい児・者が新型コロナウイルスに感染した場合、受け入れ可能な病院が限られる現状においては、保護者等が自宅で受け入れざるを得ない状況が生じている。

 当該場合においては、居宅介護等の在宅サービスの活用が想定されるが、通常の居宅介護等の在宅サービスは支給量の上限が定められており、在宅での24時間体制の看病・支援は困難である。

 新型コロナウイルスに感染した障がい児・者を在宅で受け入れる場合には、居宅介護の回数制限の撤廃などの特別な措置を講じ、在宅における完全な支援体制を可能としていただきたい

以上


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