【第1回対談】知的障がい児者のご家族の皆様へ 後編(ゲスト:野田聖子大臣)
-第1回対談動画(後編)-
令和4年2月22日、福祉現場で生じている問題をテーマとして、野田聖子大臣(こども家庭庁)×三原じゅん子議員(前厚労副大臣)×大川豊(大川興業)による対談を実施しました。
対談後半編では、こども家庭庁創設によって何が変わるのかについて、対談を行っています。
※障がいに関する記載について
対談記事の中で、法律用語や制度を示す際は、正確性を期するため「障害者」という用語を使用しています。
「こども家庭庁」のイメージ
こども家庭庁創設で変わる障がい児教育
野田聖子:子どもっていくつかの要素があって、「育ち」と「学び」が重要になります。私のように歳を取ってきた人間だと、学びよりも育ちがメインですが(笑)でも子どもはやっぱり両方必要ですから、その両方に専門性が必要だろうと。文科省は「学び」で一貫してやってきているので、それは文科省に任せる。
野田聖子:その一方で、私たち(こども家庭庁)は、子どもが中心なんだっていう国にするために、教育を受けられない「義務教育の前の部分」で可能な限り(省庁間で)連携をしていく。実は、義務教育の前の段階(例:乳幼児期の保育園、幼稚園など)は、義務教育じゃないから行っていないことが多いんです。
大川豊:なるほど。
野田聖子:やっぱり(保育園などに)行っていない子の中で、障がいを抱えた子たちが虐待の対象に成ることが明らかなんです。そういうとことは、今までのように見て見ぬふりをしない。ちゃんと国の方で、(実際に園に通わなくても、仮想的な)バーチャルな園に所属してもらうなどしてもらってキチっと見守っていこう、というのが大きなポイントです。
野田聖子:何を持って「健常」というのかが良く分からなくなるから、「健常」っていう言葉は好きじゃないんです。例えば、眼鏡をかけているだけで、補助具があるから障がいを持った人だよね。けれど実際には、「健常」と健常じゃない「障がいの子」って分けられている。
これまで、税と社会保障の一体改革で、お年寄りだけに行っていた消費税のお金を、子ども子育てに使うことになった。そこまでは良かったんだけど、なぜか障がい児は「子ども」なのにそこにお金の恩恵がない。(※福祉分野の予算に集約されてしまっている趣旨。)このことは、障がい児側は知っているんです。
大川豊:けれども、(障がい児の)周囲の方々は全然知らないんですよ。それで心配していたんです。
野田聖子:それを私は正したいと思って、ここに入れたんです。
野田聖子:この枠組みは、自民党では党内手続きが終わりました。これから法案の審議に入って反対が無ければ、障がいのあるなしにかかわらず、子どもは子どもっていうプラットフォームができる。
大川豊:この前、スペシャルオリンピックス東京(※知的障がいを抱えた方々を対象としたオリンピック)の方とお話ししたら、「障がいをお持ちのお子さんは、早めの時期から運動ケアをすると小学校に就学する段階で全然違う」っていうこともおっしゃっていただいたんです。
是非、知的障がいや発達障がい、更にはグレーゾーンの境界知能のお子さんたちも含めてケアをしていただけるような体制を作ってもらいたい。
野田聖子:それが(こども家庭庁の創設で)可能になってくる。こども家庭庁を創る理由の一つがそれだったわけです。現在では、障がい福祉の枠の中で(障がい児へ)一定の予算がついています。けれども、本来ならば子どもとしてあるべき居場所(保育や教育の分野)と違うところに予算の関係で置かれちゃうことは、ちょっと問題ありかなと思っています。
野田聖子:本当の意味でインクルージョンというか、地域っていうのは、やっぱり友達がいることだよね。そこが今や、ちょっと分けられちゃっているので、普通の小学校でも障がいを持った子が入れば、その子に必要なお金はそこに直接行くみたいにして、わざわざ感がないような社会を作っていきたい。
「今年から1人、学校に障がい児が入学することになりました。教室や先生の手配をどうしましょう、大変です。」ではなくて。例えば、アメリカのインクルージョンのやり方だと「3割は障がいを持った子が入学する」と決めて、その(障がいの)種類は問わない。当初の制度設計の段階から、3割の障がい児の子が入学することを前提にして人を配置する。そういうのを目指して、こども家庭庁が変えていくように設計しているつもりです。
大川豊:うちの甥っ子、カナダに留学しているんですが、中学1年生から高校3年生までは1クラスなんですよ。だから自分の好きな授業に行ってもいいんです。だから中学1年生でも高校3年生の勉強をしたい子は行ってもいい。それと同じような、知的障がいをお持ちの方バージョンが(カナダでは)あるんですよ。そういったことも含めてお願いしたい。
18歳以上の加齢児童問題
野田聖子:こども家庭庁の特徴は、子どもを年齢で区切っていないんです。
大川豊:本当ですか!?その点を凄く聞きたかったんです。
野田聖子:これはやっぱり私たち(障がい児者を抱えた家族)の考えですよね。年齢では区切れない。今までの制度って、児童福祉も児童相談所も全部そうだけど、18歳で切っちゃうから誕生日を1日でも過ぎただけで原則として何もしてもらえなくなる。それはやめよう、というのがこども家庭庁の一番大事な考え方です。
大川豊:加齢児童の問題はいつも問題に上がっていて、18歳になった瞬間に世界が変わる。
野田聖子:障がいの子は特に個人差があるので。
大川豊:あと日常のルーティーンを壊されるのが苦手な子もいるので。
野田聖子:そういった子たちをきちっと見届ける、子どものための役所なんです。今までは大人の都合で子どもを勝手に年齢で区切ってやってきたけど、これは「子ども都合」の役所ですから。
大川豊:例えば、学びを続けながら就活をしたいっていう子もいます。
野田聖子:ずっとそれを残していこうと。
大川豊:それは非常にありがたいですね。
野田聖子:「こども家庭庁」って名前ですごい素敵だけど、まさに「パラダイムシフト庁」みたいな今までと違う考え方で作っているんです。
大川豊:基本が全然違いますね、根本の思想自体が。
三原じゅん子:まさに「野田聖子庁」です(笑)
野田聖子:それを言うと独裁的でみんな嫌になるから…(笑)
大川豊:でも、パラダイムシフトを行うなら、それぐらいのパワーじゃないと。
野田聖子:これまでのような「強い者のための政治」から、「そこにいなかった人のための多様な政治」に変えていける入口だと思っています。
子どもとか、妊娠中の女性、子どもを持った女性っていうのは強くはないんです。ご自身やお子様に障がいを持っていればなおのこと。そういった方々が、今後は政策の「真ん中」に置かれてくる。弱いと思われている人が居心地よくなれば、強い人にとってもいいわけで、そういったフルフラット的な考えです。
大川豊:そうなればお互いの交流も生まれます。障がいの分野でいえば、軽度の方が重度の方のケアをしたりとか、軽度の方が重度の方の通訳を行ったりだとか。
野田聖子:私たちの議連では軽度のこともやっているけど、例えば虐待もそうだし、居場所づくり、いじめっていうのも、実は障がいを持った子と繋がってくるんです。
けれども、今はそこがバラバラにやっているから、今後はそこもうまくリンクができて効果的な対処ができるはずです。
デジタルが広げる子どもたちの未来
大川豊:今、学校の授業では日常的にPC等を使用していますが、タブレットで顔を描くとそれに合わせて音楽が作曲されたりだとか、指の動かし方で作曲までできるようになっている。
野田聖子:それは、凄いですね。
大川豊:だから例えば、医療的ケア児の子でも、目の動きなどを感知させることで出来ることが一杯増えてくるんじゃないかなと。
野田聖子:よくデジタルトランスフォーメーション(DX)、デジタル田園(都市国家構想)とか言っているけど、その「デジタル」っていうのはマイナスをプラスにすることができる道具なんですよね。
※デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)
「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」という概念。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された。
※デジタル田園都市国家構想
地方のデジタル化によってビジネスや教育、医療といった様々な課題を解決し、地方と都市の差を縮めるようとするアイディア。2022年1月4日の岸田総理大臣の記者会見でも「デジタル田園都市国家構想」の実現に関する決意表明がなされた。
【参考資料】デジタル田園都市国家が目指す将来像について(デジタル庁)
野田聖子:昔の話ですが、携帯電話にi-modeが入ったことで、耳の聞こえない方が電話機のメールを見ることでデータを得ることができ、さらにそれを活用することができるようになった。
聴覚障がいの人には電話が使えなかったことを、使えるようにして、なおのこと付加価値をつけて有効活用できるのがデジタルの醍醐味。今そこが足りていないので、私たちの議連の方でも、デジタルあるあるを作って、あきらめている人たちが諦めないような風を送るようにしたい。
大川豊:厚労省の方には以前から、障がいをお持ちの方々にビックデータを活用することで、その人に向いている職業がわかるといったことができるんじゃないかということを言わせていただいています。
こども家庭庁が取り組むプッシュ型政策
野田聖子:今までの福祉って、ご家族が自分で探しに行かないとサービスを見つけられない。これを今度こども家庭庁はプッシュ型に変える。生まれたときに障がいを持っていることがわかれば、すぐに保健所なり、区役所から「こういったサービスを受けられます」っていう連絡をする。うまくマイナンバーとかを活用して実現したいんです。
基本的には、プッシュ型とアウトリーチっていう今までの福祉にはない発想です。それをまず、子どもを通じて取り入れていければと思っています。
大川豊:もしかしたら他の省庁もこども家庭庁に影響されて変わっていく。プッシュ型になっていく可能性まであるわけですよね。
野田聖子:こういうことができたのは、この「知的障がい者の明日を考える会」のみんなのおかげなので、是非実現したいと思っています。