【第3回対談】そのだ修光議員×三原じゅん子議員×大川豊氏 前編
-第3回対談動画(前編)-
知的障がい者の明日を考える議員連盟の会長代理として活動されている「そのだ修光議員(参議院議員)」をお招きして、第3回対談を実施しました。
障がい福祉と介護保険制度は制度的設計的にも密接にリンクしているため、自らも高齢者施設の運営に携わってきたそのだ修光議員と、コロナ禍で高齢者介護の現場で生じている問題について、対談を行いました。
動画後編では、高齢知的障がい者と介護保険施設の関係についても議論を行っておりますので、是非ご覧ください。
※障がいに関する記載について
対談記事の中で、法律用語や制度を示す際は、正確性を期するため「障害者」という用語を使用しています。
そのだ修光、予算委員会の質問の影響
大川豊:今日は参議院議員のそのだ修光さんをお迎えしました。特養や老人ホームもやられているとのことで、先日の予算委員会でも介護福祉分野に関する質問をしていただいてありがとうございます。
三原じゅん子:うちの議連、知的障がい者の明日を考える会でも会長代理として活動していただいて、本当に心強い先生です。予算委員会で質問した後、どうなったのか。高齢者施設だけじゃなくて、障がい者施設の方にもどういう影響があるのかとか、そうしたことも含めて、皆さんに知っていただければと思います。
大川豊:はじめての方もいらっしゃるので、具体的にどういったご質問されたのでしょうか。
そのだ修光:この前(令和4年3月7日)の参議院予算委員会の質問でしたけど、障がい者の皆さんの施設に通じることだろうと思います。
高齢者施設というところには、保険財源に基づく施設(特養等)の職員と、一般財源化された養護老人ホーム、軽費老人ホーム、ケアハウスの施設職員がいます。岸田総理が、介護分野公的分野の人たちの給与を上げますよと公約されたんです(※処遇改善支援補助金:月額9,000円相当の賃金増のこと)。
これが2月の補正予算から出たんですよ。けれども、これは(特養等の)保険財源の施設職員の人たちだけが対象となってしまった。同じ介護をしていても、一般財源化された地方交付税で運営される施設(養護老人ホーム等)、出元が総務省のところは(処遇改善支援補助金が)出ないんですよ。
同じ介護をしながらですよ?職員は全く同じ介護をしているのに、一方(保険財源施設)は出る、一方(一般財源施設)は出ない。職員からしてみれば、同じ仕事しているのにおかしいじゃないのって。
これが国の仕組みなんですよ。高齢者は、措置制度から保険財政に移って介護保険になった。しかし、障がい者は(契約制度と言いつつも)元々措置制度の名残が続いていて、国の方で地方が中心になるようにした。地方独自でやりなさいよと。財源はあげますから、独自で地方の裁量でお金を出していいですよという仕組みなんですよ。
そうなってくれば、地方のわずかな予算の中で、地方の首長さんの裁量が大きくなり、「今回はうちの市では大変厳しいから、障がい害者の方に回すお金はないですよ」とか、「高齢者の皆さんに回すお金ないです」となったら出さなくてもいい仕組みになった。これがおかしい。
三原じゅん子:うん。
大川豊:これが地方分権ということなんですか。
そのだ修光:地方独自の裁量に任せるというのが地方交付税の仕組みなんです。声の小さい自治体は、財源が厳しくなることになっちゃってね。こういった国の中での話を、しっかりと地方の皆さんにも伝えていかないと。財源そのものは税金なんだから。税金の中で我々の介護も障がい者も、苦しんでいる人たちに回すっていうのは当たり前のこと。ただ地方交付税は、公共工事に使うお金が足りないからとか、そういう形で使われるような仕組みになっているから、介護や障がい分野に行きつかないんですよ。
今回、私が質問したのは、その点なんです。ようやくね、地方交付税を財源とする施設(一般財源施設)に対しても、今回の職員の処遇(改善支援金)は同じだけ上げてくださいね、ということを岸田総理に言って、初めてそれが今回なったんですよ。市町村に伝えてくださいねと。
大川豊:自分たちも、知的障がい者の明日を考える会の勉強会で言わせていただいています。地方自治体にきちんと通達をお願いしますということを。
そのだ修光:それをしっかり念をおして、全国放送の中で言わせていただいた。
三原じゅん子:全国に伝えること、そこが大事なんです。
大川豊:これでちゃんと全国に通達が行ったのでしょうか。
そのだ修光:通達が出たんです(厚生労働省老健局高齢者支援課長通知[老高発1224第1号令和3年12月24日])。今、市町村で「はい、わかりました」というところまで来た。けれども、厚労大臣にしても、岸田総理にしても、「しっかりとチェックしてくださいね」「給与が上がったか、見てくださいよ」とそれを念押ししたんです。
岸田総理は「はいわかりました」と回答してくれて、ようやく少し安心したんです。全国を見ると、2月の補正予算から率先して(一般財源施設にも支援金相当額を)出してくれている市町村もあるんです。ただしっかりと言わなければ、(多くの市町村は)スルーしちゃうんです。
【厚生労働省通知・抜粋】
「養護老人ホーム及び軽費老人ホームに勤務する職員については、この処遇改善の対象となっておりませんが、その業務内容は介護職員の業務内容に類似していることなどから、必要な処遇改善を図ることが重要であると考えており、老人保護措置費に係る支弁額等について、適切に改定いただくようお願いします。なお、この改定に伴い生じる経費については、令和4年度から地方交付税措置を講じることとされております。」
厚生労働省:老高発1224第1号令和3年12月24日付厚生労働省老健局高齢者支援課長通知
三原じゅん子:だから、そのだ先生が全国放送の予算委員会で、総理にやってくださいねって言って、わかりましたって言わせたから、これができたけれども、それがなかったらスルーされていたと思うんです。
大川豊:やっぱり、そうなんですか。自分も総理官邸で知的障がい者施設のコロナワクチンの優先接種お願いします、確認もしてくださいとお願いをしました。けれど、その後のことは我々民間では確認ができないので。
そのだ修光:今、大川総裁が言ったみたいにワクチン接種、今回のコロナ禍で施設も大変だった。障がい者の施設は特に大変ですし、我々介護の現場も大変だった。これほど福祉の現場が逼迫してしまうと、陽性者になったら、必ず医療の現場に移すっていうのが原則。障がい害者のところも当たり前の話なんです。
大川豊:原則です。
そのだ修光:入院させる。それができなかったんです。
大川豊:現場は本当に大変でした。
コロナ禍の高齢者介護の現場
そのだ修光:高齢者も障がい者も施設の中で療養しなければならない。これがどんなに大変なことなのか。医療の現場は専門家がいる。けれど、我々は素人なんだから、素人の中で看なさいよって言われて。施設で看なさいよと言ったら、それだけのものをしっかりと国でも手当てをしなきゃいけない。それが大事なんです。
介護や障がい者施設はクラスターが出て、死者がどんどんどんどん出ているんだから、ここのところを政府はどう考えているのかと。今回の第6波で大変な状況が生まれたよと。少しワクチン接種を甘く考えていたんじゃないの、岸田総理?
正直、甘く考えていたんですよ。それでクラスターがどんどんどんどん起きてね。死亡事例がドンと増えたんですから。第5波の時にはそんな出てなかったんですよ。 これね、尾身会長が言った、高齢者施設を守らなければ死亡事例が出ますよと。その通りにどんどんどんどん出たわけだから。
大川豊:介護施設は関わる人数が多いので、ものすごく声が大きくなりやすいじゃないですか。他方で、障がい者の場合は声を上げることすらできず、なかなか病院も入れないとかご理解いただけない、っていうことがあるんです。
そのだ修光:介護でも全くその通りのことが起きている。
大川豊:介護の方も病院に入れない?
そのだ修光:入れない。ただ(施設や自宅で)療養しなきゃいけない。
大川豊:知的障がい害者施設だと、付添人っていうか、支援する人がいないと病院に入れないことが大半なんです。けど、コロナだと付き添い自体も拒否されるので、結局入院は難しいですっていうことがありました。
そのだ修光:特に第6波になって、どんどんどんどんクラスターが出てしまって。(介護分野でも)入院ができない。
大川豊:入院できなかったんですか。
そのだ修光:できなかったんですよ。だから、大変な状況になっている。
三原じゅん子:クラスターの発生は、高齢者施設が一番多くて大変な状況になっている。
高齢者施設でのクラスター増加に歯止めがかからない。自治体の情報などを基にした厚生労働省の集計では1月10~16日62件▽同17~23日136件▽同24~30日252件▽同31日~2月6日292件――と1カ月で5倍に。昨夏の第5波の水準(43件が最多)を大幅に上回る。
毎日新聞:1カ月で5倍、高齢者施設クラスター 「指示待ちせず自己防衛」も
大川豊:クラスターが起きてから初めてその医療チームが施設に行くみたいな感じがありました。
そのだ修光:それが今では医療チームも派遣できない。だから、死亡事例がどんどんどんどん出ちゃう。
大川豊:医療チームも届かなかったんですか。
そのだ修光:厚労省側は、「感染者を介護現場で看てもらうんだから、その対策として、県に医療班の要請をしてもらえれば、医療班を派遣します」と説明はしているんです。けれど県に言っても、派遣できる医療班なんてどこにもない。自分たちも(病院内の)医療の現場で大変だから。
大川豊:自分の病院で受けるだけで一杯一杯だから。
そのだ修光:だから大変なことになってしまった。
大川豊:クラスターが起きる前から医療チームに来ていただいて、ゾーニングとか。
そのだ修光:そこまでのことができてないんですよ。介護の現場でも、障がいの現場でも全く同じことが起きていたと思います。
地方の裁量に任せる?!地方分権の問題
そのだ修光:国が話をするのと、現場サイドの認識とでは全く乖離があって、うまくは行ってなかったんですよ。
国で決めたことが市町村までしっかり伝わっているかどうか。国でこうして決めても、地方の裁量があるから、どういう形で地方で決定すればいいのか、という思いはしてならない。
大川豊:もう地方がバラバラでしたからね。頑張ってやられているところはあったんですよ。例えば奈良の施設だったら、すぐ、奈良県立医大と連携してすぐ保健所も連絡取れて、早めに治療ができたりもするんですけど、千葉の施設だとなかなかそれができない。保健所も電話繋がらない。
そのだ修光:やっぱりコロナを体験して初めて、そういうことがあぶり出された、いろんな意味で。だからこのことは、見直しをしていかないと。地方の裁量、地方の裁量って言われたって、もうすごい温度差があるんですよ。全国一律っていうんだけれども、一律にならないならない。今回痛いほどわかった。
大川豊:前回、三原さんとお話させていただいた時に、(出された通知・通達の結果を)検証していない。
三原じゅん子:そう、通達を送った後が問題。
そのだ修光:先日の予算委員会で岸田総理と厚労大臣に、ちゃんと通達の結果をチェックしなさいよ、その後どうなったかっていうのを口酸っぱく言ったのは、そこのところなんです。チェックの体制ができてないんです。
大川豊:人手も足らないってことなんですか。
そのだ修光:地方に口出しできないっていう話はあるんです。
大川豊:それを言われるんです、地方分権ですと。けれど現実問題としてやってもらわないと、ことが動かない。
そのだ修光:確かに地方分権の問題があるよね。だから僕は総務大臣にも話をしたんですよ。財源はちっぽけだけれどもしっかりやってもらわなきゃ困るのよ、ということを。
だから、今回(介護職員処遇改善支援金)は総務省からも通達が出た。厚労省からの通達だけでは、上手くいかないんです。けれども総務省から言ってきたら、地方の首長というのはグッてくるそうなんですよね。ここは大事なことで、地方自治体を仕切っているのは総務省。地方交付税の所管も総務省。障がい者のこともそうなんです。そこに行き着くと思います。
自治体次第!?医療介護総合確保基金の使い道
大川豊:三原さんとも話したんですけど、エッセンシャルワーカーとは何ぞやと。医療従事者は、確かに本当に大変な最前線で戦われてるので、それなりに色々手当があったりとか、そういうのはわかると思うんですけど、介護の現場もめちゃくちゃ大変なわけじゃないですか。それでの支援金とか応援するお金とかっていうのは…。
そのだ修光:医療介護総合確保基金っていうのを作ってあるんです。これは県に国から出してある。その中でコロナ対策に対して、かかり増し分っていうのは、今、職員が、コロナに対していろんな費用がかかったら、そこから出せるような仕組みをしてあるんです。だけど、地方の裁量で「これは出せないよ」とか、地方で決められてしまうんですよ。国は口出しできないよと。
大川豊:国が口出しできないっていうのもおかしいですよね。
そのだ修光:医療介護総合確保基金の中の使い方っていうのは地方に任せてある。
大川豊:それも地方にも任される。堂々と使っていいお金で。
そのだ修光:コロナ対策のために防護服から何から買わなきゃならないから、そんなのは本来請求してもらえば出せるようなお金なのよ。介護も全く一緒。通常時に使うお金じゃないんだから、かかった費用は全部出しなさいって。国はごもっともですよねって言うんだけれども、地方にいったら、いやこれはダメよねとか。いろんな制約がでてきて…。
足高(障がい者福祉研究所):そのだ先生がおっしゃる通り、障がいの分野ではコロナでかかった経費は補助しますよという制度を作っていただいたんです。(※新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス事業所等に対するサービス継続支援事業)
大川豊:そうですよね。全額補助ですよね。
【厚生労働省】「新型コロナウイルス感染症に係る障害福祉サービス事業所等に対するサービス継続支援事業」について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00316.html
足高(障がい者福祉研究所):施設で1回クラスターが起こって職員の皆さんに特別手当を出したとする。簡単に、50万100万円の経費になるんですけど、県によっては50万円が上限ですと、それ以上に関しては県が個別に審査しますから出すかわかりませんよっていうことを言われたりしていますので、実際に国の指針と県の裁量が結構食い違っている。
そのだ修光:そこは県の裁量ですよ。そこはその通りなんです。だから、それに対してモノを言えないっていうのは、そういう仕組みなんですよ。しかしコロナに対してだけはね、そんなことを言って貰っちゃ困るんですよ。
大川豊:財源そのものはコロナに対してあるんだから全部に使っていいわけですよね。他の公共事業に行くとか、そういうお金じゃないです。
三原じゅん子:違います。使い道の決まったお金です。
大川豊:元々準備されているお金。
三原じゅん子:かかったものはどうぞと。そうなんですけど。
そのだ修光:使い渋るんですよね。
大川豊:なんでなんですか。
そのだ修光:よくわからないね。だから、チェックしなさいねっていうのは、そこなの。
三原じゅん子:検証すればまた次にね
大川豊:そうですね。
三原じゅん子:どれだけかかるか用意しておかないと。
そのだ修光:コロナの収束なんかないんだよ。ずっと、ウィズコロナだから。これはずっと言い続けないと、これはしょうがないですよ。だから基金はね、しっかり担保したお金を、国はしっかり財源確保するんだから。
大川豊:どんどん地方に使ってもらって、足りなくなったら、国が応援するとかでいいんですよね。
そのだ修光:それでいいんです。社会回せないもの。
三原じゅん子:全国知事会とか、出しますよって言っているんです。
大川豊:言っていたんですよね。しかし現場に行くと必ず上限が出てくる。
そのだ修光:三原さんは厚労副大臣やったからよくわかっていらっしゃる。厚労副大臣として知事会でしっかり財源確保してねって言われて、確保した。確保はしたけれども、現場は、あれこんなお金も使えないのっていうのがいっぱい出てきている。
大川豊:もちろんです。大変なことになりました。
そのだ修光:実はね、在宅介護支援を行う方も、本当は危険手当なんですよ。例えば、利用者さんから(体調が悪いからと)訪問介護を依頼する電話が来た。障がい者も一緒です。利用者さんから電話が来たら、その利用者さん、コロナにかかっているか、かかってないかわかんないんだから、そこに行かなきゃならない。危険な場所に行く以上は、それだけの危険手当を、そんなのも基金で使えるんだから出しなさいって言っているんですよ、市町村に。
それが、市町村では、あれはこれでって言って断られるケースとかたくさんある。厚労省も、もう1回通達を出し直すなどしてしっかりしなさいよっていう話なんですよ。市町村と国との温度差が出てきている。特に理解のない市町村は、いやいや、こんなお金は出せないよって、自前で判断しているわけだからおかしいことになっているんです。
大川豊:今回のコロナ対策だけでも経済が回るじゃないですか。言っちゃなんですけど。医療関係であったりとか、そういう消毒関係、衛生関係とかでも、色々経済が回るわけじゃないですか。
そのだ修光:全くね。大事なことよね。
<後半へ続く>